犬と猫…ときどき、君
「おはよ」
扉が開いた瞬間、そう言った城戸は拍子抜けするほど普通で、城戸にとっては、昨日のキスはその程度だったのかと思ったら胸がチクンと痛んだ。
ねぇ、城戸。
もう私、本当に分からないよ。
城戸が何を考えているのか、全然分かんない。
でも、どうしても確かめておかないといけない。
気付いてしまった、城戸への気持ち。
だからあのキスは、絶対にあやふやにしちゃいけない……。
「昨日の事、憶えてる?」
私に向けられていた、真っ黒な瞳が、一瞬揺れる。
だけど、城戸が憶えていないはずがないんだ。
どんなにお酒を飲んでも、どんなに酔っ払っても、城戸は全部憶えてる。
“そうじゃないと、酔っぱらいのお前の介抱できねぇだろ”
あの頃、そう言って人を小バカにしたように笑っていた城戸の言葉が、なぜか頭の中に蘇って……。
バカみたいに胸が痛い。
それなのに目の前の城戸は、私の気持ちになんて気付く様子さえ見せずに、クスッと笑う。
「……何だっけ?」
「――……っ」
本当にどうしたの?
城戸は、そんな人じゃないでしょう?
胸が痛くてズキズキして、滲んだ視界をごまかすように、城戸を睨み付けた。
だけど、次の城戸のその言葉で、もっともっと胸が痛くなった。
「冗談。憶えてるよ、全部」
その少しだけ掠れた声も、少し困ったように私の瞳を真っ直ぐ見据える黒い瞳も、やっぱりどうしたって大好きだから……。
だからもっと、泣きたくなった。