犬と猫…ときどき、君
「ごめん」
ストレートな言葉で謝罪した城戸は、何も言えないでいる私に、もう一度静かに口を開く。
「最低なことした。……ホントごめん」
“ごめん”って、なに? どういう意味?
言葉が足りなすぎる。
あの時の城戸の行動を理解するには、もっとたくさんの言葉が必要で。
――だけど、それを理解するのも怖い。
そう思っている時点で、私は逃げていたんだ。
胸が痛くて、苦しすぎて、どうしても耐えられそうになくて……。
「全部忘れるから。昨日のことも……昔のことも」
口をついて出たのは、そんな言葉だった。
そう吐き捨てながらも、城戸の本心を、城戸の口から聞かなければ、気づいてしまったこの気持ちも、いつか報われる日がくるんじゃないかなんて。
そんな、バカみたいな事を、きっと頭のどこかで考えていた。
「胡桃」
私の言葉を、目を逸らすことなく全て聞いた城戸は、もう一度私の名前を呼んだあと、
「ごめんな」
小さく、ポツリと、そう口にした。
分かってるのに。
城戸が私を引きとめるような事はしないって、分かってるのに。
それなのに、やっぱりどこかで何かを期待していて、そんな自分が、心の底からバカみたいに思えた。
ニコニコ、ニコニコ。
城戸と別れる前もそうだった。
あんなにも、全てを受け入れてくれていた城戸に、自分の感情を晒け出すのが怖くて、私は逃げるようにヘラヘラ、ヘラヘラと笑っていた。
セミナーの間中、視界に入る松元さんの後ろ姿と、少し離れたところに座る、仲野君の姿。
きっと二人だって私と城戸がここにいる事に気付いているのに、平気な顔で城戸の隣に座る私は、一体どんな風に二人の瞳に映っているんだろう。
夜ゴハンだって、本当は「松元さんのところに行ってきなよ」って言うべきなのかもしれない。
それなのに“今日だけだから”と思う醜い気持ちが、それを邪魔するんだ。