犬と猫…ときどき、君
「やっぱりここじゃ見えないよねー……」
少しだけコンビニで時間をつぶして、いざ星の見える場所に向かおうとしたら、駐車場に座り込んでいた派手な頭の小僧たちに口笛を鳴らされた。
「だって、しょうがないじゃん! 夜道苦手なんだもんっ!! 歩き慣れてないんだもん!!」
怖くなった私は、足早にその場から立ち去って、一旦ホテルに戻って来たんだけど。
「んー……」
取りあえず携帯でよさそうな場所を探して、タクシーを呼んで行く?
でも、そこでまた同じようなことがあったら……。
「どんだけヘタレなのよー」
さっきはあんなにも“行きたい”“行かなきゃ”って意気込んでいたのに、いざその時になったら、動けない。
昔から全然変わらない。
「ホント嫌になる……」
ポツリとそんな言葉を呟いて、もう一度あの星のある方角の空を、一人眺めた時だった。
「ここじゃ見えねぇぞ」
その声に、さっきまで聞こえていた車の音も、ホテルから聞こえる人の声も、全部一瞬でかき消され……。
「遅いから、捜しに来た」
そのたった一言だけで、泣きそうになる。
泣いちゃダメだ。
こんな所で泣いたら、城戸だって変に思うし、きっと気にする。
“昨日の自分のせいだ”って、気にしてしまう。
「そっか。ごめんね」
きっと上手く笑えてなんていないけど、それでも笑わないとと思った。
無理をしてでも、笑わないとって……。
「芹沢」
そんな私に落とされるのは、勘違いしてしまいそうになるほど優しい城戸の声と、変わらない瞳。
「見えるとこ、行こっか」
「え?」
そんなはずがない。
だって、今更どうして?
城戸には松元さんがいて、私との事は、もう過去のことで……。
「行こう?」
どうしてあの頃と同じような表情で、私を見つめるの?
ゆっくりと差し出された、城戸の綺麗な指先。
その手を取ってはいけないって、分かってた。
――それなのに。
「サザンクロス、見に行こう」
私は、城戸のことが好きなんだよ。
だからその手に自分の指を絡めて、少しでもいいから傍にいたいって。
あの頃みたいに、同じ時間を過ごして、同じ物が見たいって……。
こんなにも胸が痛むのに、そう思ってしまうんだ。