犬と猫…ときどき、君
手……。
タクシーに乗り込む瞬間、離された私の手は、それが動き出した時にもう一度城戸の手に包まれた。
たったそれだけの事なのに、心臓が大きな音を立てて、私は何も言えず下を向いた。
一体どこまで行くんだろう……?
ゆっくりと視線を上げ、車窓を流れる景色を見つめると、そこには隣に座る城戸の姿が反射して映っている。
城戸は……後悔しているのかもしれない。
窓に映る城戸の表情があまりにも苦しそうで、私の胸までひどく傷んだ。
私が、昔を想い出したりしたから……。
それでなくても、きっと城戸は、昔の自分を責めている。
私を傷つけたって、そう思ってる。
でも私だって、いつまでも優しい城戸に甘えて、聡君に対する城戸の気持ちに気づかなかったんだから。
それに、松元さんの事だって。
――結局、私だって城戸を傷つけていたし、彼女と戦わなかったのは自分だ。
今更それを後悔したって遅いし、時間はもう戻せない。
それはきちんと、分かっているつもりだ。
もしも、城戸との時間を取り戻したいって、私がそう思う事で、城戸に辛い思いをさせているのなら、私は……。
「芹沢」
考え込む私にかけられた、城戸の声にハッとした。
「着いた」
そう口にして、私をタクシーから降りるように促す城戸の手を、ゆっくりと離す。
暑いはずなのに……。
指先に触れる空気が冷たく感じるのは、昔と変わらない、城戸の高い体温のせい。
その冷えていく指先を、こんなにも淋しいと思う私は、本当にどうかしてる。