犬と猫…ときどき、君
着いた場所は、いつかの夏の夜みたいに、緑の匂いがする場所だった。
その緑の香りに、微かに混ざる城戸の香り。
ダメだなー……。
どうしても、昔のことを想い出してしまう。
「すごい、緑の匂い」
「そうだな」
たったこれだけの事。
これだけの会話。
それなのに、こんなにも私の心を優しい気持ちで満たしてくれる人。
城戸って、やっぱり不思議な人。
嬉しいのに、悲しくて、思わず空を見上げると、そこには信じられない数の星が光っている。
すごい綺麗ー……。
一瞬、全部を忘れてそう思った。
――それなのに。
「口開いてる」
「……うるさいなぁ」
城戸の笑いを含んだ声に、口元を押さえれば、ますます楽しそうに笑われて、なんか嫌になる。
この期に及んで、こんな気持ちを抱いてしまう自分が、嫌になる。
だけど、頂上が近づくにつれて、お互い無言になっていって……。
その先に何かあるのか、何もないのか。
きっと後者だと思うし、後者じゃないといけないんだけど。
「――……っ」
ゆっくりと拓けたその場所で、私は息を飲んだ。
「あそこ……」
城戸が指をさすその場所には、あんなにも見たいと思っていた、サザンクロス。
城戸……。
私、分かっちゃったかも。
ホントに今更だけど、どうしてあんなに小さな星に、いつまでも執着していたのか。
城戸と約束していたから。
城戸と……見たかったから。
――ただ、それだけだったんだ。
城戸への気持ちを認めてしまえば、その疑問を解くのは、こんなにも簡単な事だったんだね。