犬と猫…ときどき、君
それから結局、春希には今野先生との事は話せないまま、沖縄から帰って、今日で一週間。
「芹沢ー」
「なに?」
「斉藤さんとこのナオちゃんさ、今日で点滴終わらせるけどいい?」
「あー、いいんじゃない? もう元気そうだし」
「りょーかい。じゃー、オーナーにもそう伝えとく。……“院長から一言”ある?」
「……」
「冗談だよ。睨むなよ」
私と春希は、周りに何も勘付かれることもなく、上手くやっている。
それどころか、春希はまるで何かをふっ切ったかのように、前よりも昔に近い様子で私に接してくる。
それを見ていたら“きっと私と今野先生の事を話ても、春希は変わらないんだろうな”……なんて、思うんだけど。
「……」
「何だよ」
「何でもない」
「あっそ」
だったらさっさと話してしまえばいいのに、それが出来ないのは、私が春希に何かを期待しているから?
どちらかが上手く距離を置けば、それで済んでしまう。
そんな二人の真ん中には、見えないけど、きっともの凄く分厚い壁がある。
それを壊してでも、この関係を変えようだなんて、やっぱり思わないんだ。
だって現に、沖縄でお互いに気持ちをぶつけてしまったのに、こうして普通に過ごしていられるんだもん。
私たちの関係は、こんな関係。
きっと私が気付かなかっただけで、今までも、これからも。