犬と猫…ときどき、君
「ハルキ先生、もうすぐオペ終わりますかね?」
「あー、終わるんじゃないかな?」
「じゃー終わったら倉庫からポンプ出してきてもらおっと! ヒマなので、色々補充しておきます」
「もう表のなかった?」
「50ミリシリンジが切れかけなんですけど、私届かないし、崩れたら嫌だし」
「ハルキ先生だったら、崩れてもいいやって」と付け加えて笑うミカちゃんの後ろから、笑いながら顔を出したのは、春希ではなく聡君。
「オイオイ。少しは獣医師を労われよ」
「及川先生!」
「城戸になんかあったら、困るのは胡桃なんだぞ?」
「え?」
「診察一人でやんなきゃいけなくなるんだから」
あー、なるほど。そういう意味ね。
それを聞いてケタケタと笑うミカちゃんの横で、無駄にドキッとしてしまった。
「あっ! じゃー、及川先生お願いします」
「おい。話聞いてたか? 獣医を労われって! まぁいいけど」
「え? いいの?」
「おー。奥の倉庫だろ? 城戸待つよりは早い」
そう言って、持っていたカルテを私に渡した聡君は、笑顔で手を振るミカちゃんの頭をペシッと叩いた後、病院の一番奥にある倉庫に向かって歩いて行った。
たまたま雨が降って、たまたまお客さんがいなくて。
たまたまポンプの在庫が切れて、たまたま聡君が春希の代わりに補充に行って。
幾重にも重なった、小さな偶然。
それが、止まったままの歯車をまた動かす事になるなんて、この時の私たちには想像できるはずもなかった。