犬と猫…ときどき、君
「――悪いな、椎名」
視線の先に広がる空は、晴れているはずなのに。
「空ってこんな色だったかなー?」
年を重ねる度に、その色がくすんでいく気がして、溜め息がもれた。
アニテク部屋の窓から、視線を横に90度ずらせば、スクラブの上に白衣をはおる胡桃が映る。
「……」
下ろしていた髪を、器用に一つにまとめるその仕草が、やっぱり好きだと思うんだ。
だけど目が合った瞬間、思わず笑ってしまった。
絡んだ視線に目を大きくして、パチパチさせた後“もう始まるよっ!!”って、ドアの方を指差す。
「分かってるよ」
俺の口の動きを読んだ胡桃は、そのままちょっと唇を尖らせて、フッと笑った。
なんかもー、勘弁してほしい。
「キスすんぞコノヤロー」
なんて、言えるワケないけど。
尻をパタパタと叩いて立ち上がる俺を見て、満足げに笑った胡桃は、そのまま聴診器を首にかけると、そのまま医局を出て行った。
時間が解決してくれるなんて、甘かったかも……。
まだ数週間なのか、もう数週間なのか。
数週間って言っても、もう一ヶ月近く経つワケだし。
上手くいかないもんだな……。
忘れようと思ったって、そんな簡単なもんじゃない。
胡桃と出逢ったのは、もう十年以上も前なのに、何も変わらないんだ。
あの頃から、胡桃に対する気持ちは何も変わっていない。
もしも、一緒に過ごした時間と想いが比例するなら、胡桃を忘れるのに、一体どれだけの時間が必要なんだろう――……。