犬と猫…ときどき、君
それから何故か、突然どこかからトランプを引っ張り出してきた先生の“ボケ防止”らしい神経衰弱に付き合って、「“神経衰弱”という名前はどうなんだ!?」なんていう議論になって……。
横山先生は、今一体どんな気持ちなんだろう。
そんな事ばかり考える俺は、結局トランプでもボロ負けするし。
「城戸君は弱くて話にならないな」
「……すいません」
何度目かの俺の敗北のあと、心底つまらなそうにそう呟く先生に、大人げもなくスピードの勝負でも挑んでやろうかと思ったけど、
「はいはい、そろそろゴハンですからねー」
そんな奥さんの声に妨げられるし。
大体俺、元から苦手なんだよ。
「だからやりたくないって散々言ったのに」
不満げに口を尖らせる俺の気なんか知らずに、先生も奥さんも本当に楽しそうに笑っていた。
それから、奥さんの作ってくれた洋食屋で出てきそうなビーフシチューを食べて、食後のデザートまでたいらげて。
「本当にごちそう様でした。半年分くらいの栄養取った気分です」
すっかり暗くなった玄関先で、見送りに出てくれた二人にお礼の言葉を口にした俺は、少し心配そうに俺を見つめる横山先生に笑顔を向けると、パーキングに向かって歩き出した。
空にはネコの爪痕みたいに細い三日月。
「だいぶ寒くなったな」
ポツリと独り言をこぼし、そろそろタイヤをスタットレスに交換しなきゃ……なんて事をぼんやり考える。
あー……でももし、すぐにいなくなるなら別にいいのか。
つーか、車どうしよう。
売りに出すか?
「結構気に入ってたんだけどなぁ」
ポケットの中のカギを取り出しながら後ろを振り返ると、少し離れたところにある病院の灯りはついたまま。
今日もあそこで、胡桃は何も知らないまま――……
きっとすごく楽しそうに働いている。