犬と猫…ときどき、君


それから何故か、突然どこかからトランプを引っ張り出してきた先生の“ボケ防止”らしい神経衰弱に付き合って、「“神経衰弱”という名前はどうなんだ!?」なんていう議論になって……。


横山先生は、今一体どんな気持ちなんだろう。

そんな事ばかり考える俺は、結局トランプでもボロ負けするし。


「城戸君は弱くて話にならないな」

「……すいません」

何度目かの俺の敗北のあと、心底つまらなそうにそう呟く先生に、大人げもなくスピードの勝負でも挑んでやろうかと思ったけど、

「はいはい、そろそろゴハンですからねー」

そんな奥さんの声に妨げられるし。

大体俺、元から苦手なんだよ。


「だからやりたくないって散々言ったのに」

不満げに口を尖らせる俺の気なんか知らずに、先生も奥さんも本当に楽しそうに笑っていた。

それから、奥さんの作ってくれた洋食屋で出てきそうなビーフシチューを食べて、食後のデザートまでたいらげて。


「本当にごちそう様でした。半年分くらいの栄養取った気分です」


すっかり暗くなった玄関先で、見送りに出てくれた二人にお礼の言葉を口にした俺は、少し心配そうに俺を見つめる横山先生に笑顔を向けると、パーキングに向かって歩き出した。


空にはネコの爪痕みたいに細い三日月。


「だいぶ寒くなったな」

ポツリと独り言をこぼし、そろそろタイヤをスタットレスに交換しなきゃ……なんて事をぼんやり考える。


あー……でももし、すぐにいなくなるなら別にいいのか。

つーか、車どうしよう。

売りに出すか?


「結構気に入ってたんだけどなぁ」

ポケットの中のカギを取り出しながら後ろを振り返ると、少し離れたところにある病院の灯りはついたまま。


今日もあそこで、胡桃は何も知らないまま――……

きっとすごく楽しそうに働いている。


< 507 / 651 >

この作品をシェア

pagetop