犬と猫…ときどき、君
自分のマンションに帰ると、当然だけどそこは真っ暗で、さっきまでの柔らかい光でいっぱいの先生の家とは、まるで世界が違うんじゃないかとさえ思える。
「はぁー……」
少しずつ明るくなっていくライトをソファーに座って見上げながら、漏れるのはやっぱり溜め息ばかり。
でも、そんなに時間は残されていないから、ポケットに入っていた携帯を取り出して、ボタンをポチポチ押していく。
「いつぶりだろ」
通話ボタンを押すのと同時に鳴り始めた呼び出し音を聞きながら、テーブルの上の煙草に手を伸ばして火を点けた。
……出ないか?
諦めかけたその時、プツリという音とともに、懐かしい声が耳に届いた。
「はい、原田動物病院です。時間外になりますが、急患ですか?」
その声は、前に勤めていた病院のお局アニテクの声。
「もしもし、荒川さん? 城戸ですけど」
「……城戸センセ? なに? 今更なんの用ー?」
おー、相変わらず。
忙しすぎる職場のせいか、長いこと勤めているアニテクは性格のキツイ人が多い気がする。
まぁ、この人は面白くていい人なんだけど。
「スイマセンね。えっと……院長いる?」
「院長?」
「もし手が空いてたら、ちょっと話たい事あるんだけど」
「ふーん。……ちょっと待ってて」
こんな勝手な事をしてるって知ったら、あいつはどう思うだろう。
ゆっくりと吐き出した煙草の煙が目の前でユラユラと揺れていて、院長である原田先生が電話口に出たのは、手繰り寄せた灰皿に灰を落とした頃だった。
「城戸君か? どうした、随分久しぶりだな」
荒川さんと同じように、俺をからかうような口調で電話口に出た原田先生。
少しの世間話のあと、「すみません、実は今日はお願いがあって」そう切り出したのは、大切な彼女のこれからのこと。