犬と猫…ときどき、君
詳しい事は言えないものの、一通り事情を話しを終えた俺に、原田先生は電話越しに長い息を吐き出した。
……やっぱり難しいか?
「無理だったら、他の方法を考えます。ただ、本当に優秀な獣医なので」
「いや、うん。それは知ってるよ。ただ……」
そこでいったん言葉を止めた先生は、「いい病院なのに、もったいないな」――本当に残念そうにそう口にした。
それを聞いて、どうしても言葉に詰まってしまうのは、自分がそれを一番よく分かっているから。
「うちに来てるオーナーからも、よくお前の所の病院の話は聞くし、実際に転院した人もいるしな」
「営業妨害だ」なんて、少しつまらなそうに口にした原田先生に、もの凄く申し訳ない気持ちになったけど。
――今野もいる原田先生の病院に、胡桃をお願いする。
これが最良だと思うんだ。
だけど、結局原田先生からはハッキリとした返事はもらえないまま電話を切ることになった。
従業員を一人雇うと、保険やら何やらで相当金もかかるし、即答は出来ないのが当然なんだろうけど。
「しかも、お説教つきか」
最後にもう一度「宜しくお願いします」と言った俺に、原田先生は言ったんだ。
「前向きに考えてはみるけど、お前もギリギリまで病院をなくさないで済む方法を考えるのが条件だ」
病院をなくさないで済む方法……。
100%ないワケではないけれど、それは今の俺にとっては不可能で。
「んなこと出来るなら、とっくの昔にやってるっつーの」
頭を掻きながら悪態をついた俺は、煙草を灰皿に押し付けると、どっと押し寄せた疲れに身をゆだねて、そのまま眠りに落ちた。
“アニテク、何とか引き受けられそうだよ”
“お前の所が無理なら、彼女の事は引き受けるよ”
そんな返事が篠崎と原田先生から届いたのは、その数日後の夜のことだった――……。