犬と猫…ときどき、君


――だけど。

なんで気付いちゃうんだろう。


同じくらいの身長の人だって、同じような体格の人だって、たくさんいるはずなのに……。

それなのに、どうして後ろ姿だけで分かっちゃうんだろう。


ドクン、ドクンと、さっきよりも速まった鼓動。


――どうしよう。


“お疲れ様”

“今日は早く帰ったんだね”

“こんなトコで何してんの?”


ゆっくりとその背中に近づきながら、その人に何を話しかけようか、頭の中に色んな言葉を思い浮かべる。


一歩、二歩……。

少しずつ近づくと、それはやっぱり春希だった。

でも、ぼんやりとしていた足元の影が、ハッキリと見える距離まで近づいて、私はその場でピタリと足を止めたんだ。


少し離れた所まで届いていた話し声で、最初は男の人が二人いるのだと思っていた。

だけど、その人影に近づいて、春希だって気付いて。


てっきり、運転中にかかってきた電話を取るために車を停めて、“こんなに星が綺麗だから、それを見上げたくて外に出たのかも”なんて、一人で勝手に想像していた。


でも、現実はそんなに優しくない。


冬はキライじゃない。

寒いけど、そんなの洋服をいっぱい着れば済むことだし。


街路樹の葉っぱは落ちてしまって、何だか淋しい感じはするけれど、枝の隙間からたくさんの星の光が見えてキラキラ光って奇麗だし。

何よりも、凛とした空気が気持ちい。


だからキライじゃないんだけど……。


「……」

近づくにつれて強くなる香りにその空気がどんどん侵されて、胸が苦しくなる。

ジワリジワリと押し寄せる、見えない何か。

それに包まれて立ち止まったままの私は、そこから目を逸らすことも出来ずに――……。


ただ呆然と、その光景を見つめていた。


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