犬と猫…ときどき、君


私の言葉にクスクスと笑う今野先生は、本当は私が泣いていたことに気付いているのかもしれない。


「どうしたの? なにか用事あった?」

「いや、特にないんだけど。用事ないと電話しちゃダメ?」

「そんなことないよ!」

「うーん、でもせっかくだから、用事作ろうかなぁ……」

「ふふっ」

「来週の水曜日に休み取ったから、一緒に水族館でも行きませんか?」


気付いていながらも、そこに触れないのは、今野先生の優しさ。


「ホントに!? やったー! 水族館、大好きなの!」

「うん、何かそんな気がしてた」

卑怯かもしれないけれど、それがすごく心地よくて、こんな風に話をしていると、嫌な事を忘れてホッと出来る。


「今野先生、ありがとう。水曜日、すごい楽しみ!」

「俺も」

今、春希と今野先生に抱くイメージは、太陽と月みたいに、とにかく正反対。


グラグラと揺れ動きながらも、きっと今の私が一番欲しているのは、月の光みたいに穏やかな、今野先生の優しさなのだと思う。



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