犬と猫…ときどき、君
「はぁー……。疲れた」
午前中の診察がやっと終わって、腕を伸ばしながら、ナースシューズをペタペタと鳴らして廊下を歩き、ドアの前で立ち止まる。
ここを開けると、午後のオペの為に先に上がった春希がいるはず。
でも、いつまでもここにいるワケにもいかないし、私は意を決して、ノブに手を伸ばしてそれを回した。
「……何してんの?」
「ぅわっ!! ビビったぁ!!」
ドアを開けて、左斜め前にある春希のデスク。
でも、私の声に一人で飛び上がった春希がいたのは、そことは違う別の場所。
「ビビらすなよー……」
別にビビらせた覚えはないんだけど。
「ごめん。で、何してたの?」
「あー、ちょっとパソコンの調子悪いから、デフラグかけてた」
何故か視線を逸らす春希がいたのは、ドアの裏辺りにあるパソコンデスクだった。
デフラグって、週一くらいでパソコンが勝手にやってるじゃん。
そもそも、調子が悪い記憶なんて、全くないんだけど。
「ふーん」
何か怪しいとは思ったんだけど、その時の私は、そんな大した事ではないんだろうと思っていて。
「そろそろオペ始めるから、表頼むな」
「はーい」
私と入れ替わるように出て行く、青いスクラブ姿の春希の背中を見送った。
なんか、やっぱり不協和音というか。
「はぁー……」
ここ最近、もう自分でも嫌になるくらい吐いている溜め息。
冷蔵庫に入れておいたお弁当と飲み物を取り出して、自分のデスクに戻って、そこで気が付いた。
「あれ?」
――春希の忘れ物?
さっきまで春希が座っていたパソコンデスクの、その隣にある小さなサイドボード。
そこに乗せてあるプリンタには、きっと春希がプリントアウトして、忘れてしまったんだろう再生紙が置かれたままになっていた。
そのまま放っておけばよかったんだけど、春希のデスクに置いておこうと思って……。
そこに歩み寄って手を伸ばして、それを持った手がピタリと止まった。