犬と猫…ときどき、君
それから、今野先生の携帯を二人で覗き込みながらお店を探して、ゴハンを食べて、車を停めておいたコインパーキングまで歩く途中、今野先生が私の顔を覗き込んだ。
「芹沢先生、この後ちょっと付き合って欲しい所があるんだけど」
「え? 今から?」
「うん。昨日、今日のこと考えて浮かれながら診察してたら、アニテクにデートだってバレて」
車に乗り込んで、キーを回して、楽しそうに笑う今野先生は、どこか子供みたい。
「そしたら、ろくでもないオススメの場所を一方的に大量に教えられてさ」
「あははっ!」
「でも一箇所だけ、芹沢先生の好きそうな所あったから、行けたらなーって」
「そうなんだ! 行ってみたい!」
ワクワクしながらそう言った私を、すごく嬉しそうな顔で見つめるから、胸が少し跳ねあがって、恥ずかしくなって……。
「じゃー、もうちょっとだけ付き合って」
だから私は、ゆっくりと走り出した車の助手席で、誤魔化すように窓の外に目を向けていた。
――だけど。
今野先生の目的の場所に近づくにつれて、さっきまで柔らかい音を立てていた心臓が、少しずつその音を変えていく。
もしかして……。
ギュッと握りしめた手が、少しだけ汗ばんで、喉が変に乾く。
「ここからちょっと歩くけど、大丈夫?」
あぁ、やっぱり。
「どうしたの?」
「ううん、何でもない」
「そう? じゃー、行こう。この先の丘の上から、星がすごい綺麗に見えるらしいんだ」
「……そっか」
今野先生が車を停めたのは、牧草地に向かって続く、真っ暗な道の手前の空き地。
もしも神様がいるなら、どうしてこんな試練を与えるような事ばかりするんだろう?
私がやっている事が間違えているって、警告でもしてるの?
「でも、芹沢先生の大学って、この近くなんだっけ?」
「……うん」
この道は、あの丘に続く道。
初めて春希の気持ちに触れた、星がたくさん降る丘。
「もしかして、来たことあった?」
「ううん。初めて来た」
大切なその場所を、また私は、大嫌いな嘘で汚していく――……。