犬と猫…ときどき、君

当たり前だけど、ここには春希との記憶しかない。

少し前を歩くその背中も、私の手を引くその手の熱も、全然違う。


こうして春希と過ごした記憶を今野先生の記憶で塗りつぶしていけば、いつかは春希とのことが、本当の“思い出”になるのかな。


でも、それでいいんだ。

ううん。……“それが”いい。

本当にそう思うのに。


「……っ」

どうしてそれを考えると、こんなに胸が痛んでしまうんだろう。


下を向いたら泣いてしまいそうで、天を仰いだ。

でも、そこに伸びる天の川に、また泣きそうになってしまう。


「今野先生」

「……どうしたの?」


繋いでいた手をゆっくり離し、振り返った彼に、私は一体何を言うつもりだったんだろう。


“本当は春希と来たことがある”って、そう言って、行くのをやめる?


「どうした?」

違う。

だってそれじゃ、ただ逃げてるだけだもん。


「ちょっと寒い」

そう言って伸ばした腕で彼の腕にギュッとしがみつくと、少しだけ驚いたような顔をして。


「……いやだ?」

「まさか。大歓迎」


私の頭を、掴まれていない方の手で、優しくそっと、撫でてくれる。


「ごめん、そうだよな。こんな吹きさらしの場所にその服は寒いよな?」

「大丈夫。くっついてたら温かいから」

「でも、震えてるし。また今度にする?」

「ううん。星、見たいから」


震えてるのは、寒いから?

それとも、怖いから――……?


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