犬と猫…ときどき、君
頂上に近づくにつれて、速くなっていく鼓動。
胸も息も苦しくて……。
「もうすぐだ」
すぐ隣にいる今野先生の腕を掴む手に、力をギュッと込めて、ゆっくりと息を吐き出す。
きっと大丈夫。
だって、忘れるって決めたんだから。
……大丈夫。
「おー、ホントすごいな」
その丘の頂上で、星空を見上げる今野先生は、本当に楽しそう。
その横顔をどこかぼんやりとしながら眺めていたら、視線をスッと落とされて。
「星、見ないの?」
「見るよー。でも今野先生がすごい楽しそうだから、つい見入っちゃった」
「なんだそれ」
クスクスと笑う今野先生を見ていたら、フッと呼吸が楽になって、胸も軽くなった。
でもね。
「そんなに見つめられると、困るかも」
そう言って、ゆっくりと伸ばされた指がそっと私の頬に触れて、静かに重なった唇に、
「――……っ」
やっぱり少しだけ泣きたくなったんだ。
今野先生に近づけたことは嬉しいのに、ズキズキと胸が痛む。
二つの感情が入り混じって、もうグチャグチャ……。
唇がゆっくりと離れた瞬間、どうしてもその瞳を真っ直ぐ見ることが出来きそうになかった私は、トクトクと音を立てる彼の胸に顔をうずめた。
「芹沢先生?」
「……うん」
「やっぱりまだ、リハビリは必要か」
――この時確かに、今野先生は私にヒントを与えてくれていた。
だけどその言葉と重なるように、巻き上がった風が枯れた木の葉をガサガサと揺らして――。
「え?」
「ううん。何でもない」
「……」
「何でもないよ。さて、寒くなってきたし、そろそろ帰ろうか」
届かなかったその言葉に込められた今野先生の気持ちに私が気付けるのは、もう少し時間が経ってからだった。