犬と猫…ときどき、君
病院の前の吹き溜まりの落ち葉の上に、うっすらと雪が積もったのは、それから数週間後のこと。
「それで? それを聞いて、私になんてコメントしろって言うの?」
「いや、だから……それ以上進まないのはどうしてかなって」
「知らん!! 胡桃の色ボケっ!!」
「えぇー……」
結露で窓が濡れている、ぽかぽかに温められた部屋の中。
私の目の前には、暴言を吐いた後、また今日も篠崎君に作らせたのであろうお弁当のカニさんウィンナーに、フォークをブスッと刺すマコがいる。
「大体さ、アンタはもう、城戸との事はスッキリさせたワケ!?」
「しーっ!! 声大きいから!!」
春希が休みの日は、マコはいつも医局でお弁当を食べるんだけど、隣のアニテク部屋に聞こえそうなほどの大きな声を上げるから、思わず慌ててしまった。
私の行動にマコは「聞こえないっつーの」と、更に不貞腐れる。
「で? 城戸の事は、もういいワケ?」
「……いいも何も、どうしようとも思ってないし」
「あっそ!!」
ここ数ヶ月のゴチャゴチャの前は、あんなにも春希の事を嫌がっていたのに、最近のマコは、すごく春希贔屓だ。
「今野先生、すごくいい人だよ? 一緒にいると落ち着くし、すごく大事にしてくれてるし」
自分のお弁当を開いてそう言った私に、マコは私が最初にした質問の答えを口にした。
「だったら、そういう事なんじゃないの?」
「……どういう?」
「大事にしてるから、キス以上しないんじゃないのー?」
――何よ、その言い方。
「なに? その顔」
「別に」
唇を尖らせる私から、プイッと瞳を逸らす。
だけど、溜め息みたいに長い息を吐き出した後、マコは真っ直ぐ私に向き直って言ったんだ。
「てかさ、なに焦ってんの?」
「……え?」
「何でそんなに“それ以上の関係”になりたがってんの?」
「別にそういうワケじゃ……っ」
マコの言葉に、少しだけ心臓が跳ね上がる。
「だって、今までの胡桃はそんなの気にしなかったもん。何がそんなに不安なの?」
あぁ、やっぱりダメだな。
マコには何でもお見通しなんだね。
だけど、ここで私が何かを言ったら、マコはまた色々心配するから……。
「ごめん。忘れて」
「え?」
「忘れて」
「今野先生に気を遣われてる気がして、なんか不安だっただけ」
「胡桃?」
「何言ってるんだろうね……私」