犬と猫…ときどき、君

「……」

――あれ?


「出ねーの?」

「……うん。繋がらないや」


目の前の、ナビの上にある丸い可愛い時計を見れば、時間は二十一時近く。

今朝届いたメールの感じだと、もう診察は終わっていると思ったんだけど。


「急患入ったのかもな」

「そうかも……」

急患が入ると連絡をしている暇なんてないから、こういう時はその可能性が一番高い。


「なんて言ってる間に、うち着いちゃったんですけど」

えー……。

睨めっこしていた携帯から視線を上げれば、そこにはデザイナーズマンションっぽい外観の建物。

その地下駐車場に車を入れた春希は、エンジンを停めて、少し考え込む。


「今野にもっかい連絡してみて」

「うん」

いづれにせよ連絡が取れないと身動きもとれないし、徐に開いた携帯で、もう一度今野先生に電話をかけた。

「……」

でも、やっぱり耳に届くのは、単調な機械音ばかり。


「やっぱり出ない」

留守番電話に切り替わったところで、私は諦めて電話を切った。


さて、どうしょう。

この辺りにあまり馴染のない私は、当然だけど、近くに時間をつぶせる場所があるのかもわからない。


「ねぇ、城戸――」

“どこか時間つぶせる所ある?”

そう聞こうとした。


聞こうとしたのに――……。


「取り合えず、テキスト取りに行こ」

「へっ!?」

「は? テキスト取りに来たんだろ?」

「そ、そうだけど」

「だったら、早く行こ」

てっきりこの辺で待っている私の所に、春希がそれを持って来てくれるものだと思っていたから……。

さっさと車を降りた春希の行動に、一人状況が掴めずに、ワタワタしてしまう。


「ちょっと! 待ってよ」

入口らしき場所に向かう春希は、私のその声に振り返る事もなく、スタスタと歩いて行ってしまうし。


「ねぇ、ちょっと待ってってば!」

やっと追いつくと、もうそこはエレベーターホールで、慌てる私にお構いなしに、春希は開いたドアに私を押し込める。


そして五階のボタンをポチッと押して「俺、車のカギ閉めたっけ?」なんて、呑気に首を傾げたあと、腕を組みながらエレベーターの壁に寄りかかって、困惑する私にその視線を向けた。

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