犬と猫…ときどき、君
「……っくしゅん!!」
ウンともスンとも言わない携帯を握りしめてながら考え込んでいたら、体が少し冷えて、くしゃみまで出てしまった。
確かに外よりはあったかいけど、意外と寒い。
忙しくしている春希はいつも部屋にいないから、もしかしたら、ここは余計に温まらないのかもしれない。
春希、まだかな……。
小さく身震いをして、腕をさすりながら、春希が戻ってくるのを待ってみたけど、一向にその気配がない。
だけど、その代りに聞こえてきたのは……。
「芹沢ー、悪い」
「なにー?」
「テキスト見つからん!!」
ありえない、そんな言葉だった。
「はぁ!? なんで!?」
「いや、置いてたと思った場所にないんです」
廊下を進んだその先の、四分の一くらい開けられたドアの先から聞こえたその声に、呆れながら溜め息を吐く。
ホント勘弁してほしいんだけど……。
もう諦めよう。
家のテキストでなんとかしようと、口を開きかけたんだけど――……。
扉の向こうから顔を出した春希に、いったん言葉を呑み込んで、
「そこさみーから、部屋入ってて」
その一言に、固まってしまった。
「いや、いいよ」
「なんで?」
“なんで”って。
「いいから早く。そこ開けてると、部屋温かくなんねーんだって」
“だったら閉めればいいじゃん!!”って、そう言ってしまいそうになったけど、それはきっと春希の気遣いで……。
どうしよう――って、さっきからそればっかり。
廊下の先の部屋からは、相変わらずガサゴソとテキストを探す音が聞こえていて、なんだかバカらしくなってくる。
きっとこんな風に意識しているのは私だけで、それがかえって恥ずかしい気さえしてきてしまった。
もういいや。
半ば開き直りに近いけど、とにかくここは確かに寒いし、春希は言っても聞かないだろうし。
「お邪魔します」
だから私は靴を脱いで、それを揃えて、一度深呼吸をした後、春希がいる突き当たりの部屋に向かって歩き出した。