犬と猫…ときどき、君
次の日、大学の図書館でレポートを書いていた私の正面の椅子が、カタンという音と共にゆっくり後ろに引かれた。
驚いて、パッと顔と上げると……
「よぉー」
そこには、城戸春希の姿。
「城戸……君」
昨日の事を思い出して、少し動揺する私とは打って変わって、目の前の彼は全くもっていつも通り。
相変わらず眠そうに、大アクビを一つ。
でも……。
「メガネ」
「ん?」
「今日は、メガネなんだね」
「おー。昨日コンタクトしたまま寝たら、目ぇやられた」
「そっか……」
“昨日”というフレーズにちょっとドキッとしながらも、時々見かける紺縁メガネをかけた彼の顔を見上げる。
メガネ、似合うなぁ。
何気に城戸春希のメガネ姿が好きな私は、ついその顔に見入ってしまう。
「……何?」
「メガネ似合うよね」
「そうか?」
アクビをかみ殺しながらそう言うと、せっかく褒めたメガネを外して、それをカバンに放り込んでしまった。
「メガネ外したら見えないんじゃないの?」
「……」
「何?」
私の言葉に特に反応を示すこともなく、何故か頬杖を付いたまま私を見上げる彼に、また心臓の鼓動が速まる。
「このくらいの距離だったら、ちゃんと見えるから」
「……」
「まぁ、気にすんな。続きどーぞ」
その体勢のまま私のレポートを指さすけれど、どうしたって目の前の彼の存在が気になってしまう。
一旦はレポート用紙に落とした視線をもう一度上げると、まだ私をジッと見つめている城戸春希と視線がぶつかって。
「ねぇ、ホントに何?」
「……」
ペンを置いて、溜め息交じりにそんな言葉を口にした。
だって、こんな状態でレポートなんて書けるわけがないでしょう。