犬と猫…ときどき、君
「ねぇ、城戸……」
様子が少しおかしい春希に声をかけたその時、背後にあるドアの外の廊下を走る、バタバタいう音がした。
その後すぐに、バタンと閉まった玄関のドア。
きっと松元さんが、出て行ったんだ……。
それでも春希は、黙り込んだまま私の手を冷やし続けて、冷たさで感覚がなくなった頃、やっとその口を開いた。
「今野には俺から連絡しとくから」
「……え?」
「取り合えず、シャワー浴びて」
「は?」
「着替え、適当に用意しとくから」
「ちょっと」
「あと、オデコは出てから冷やそう」
「……っ」
まるで診察をする時みたいに、冷静に淡々とそう口にして、困惑する私の前髪をそっと横に流す指先。
それに、一度は沈んだ心臓が、またトクントクンと主張を始める。
ダメだ……。
視線を上げれば、心配そうに私の瞳を覗き込む、春希の黒い瞳と視線がぶつかる。
「痛むか?」
「……平気。あの……ジャワ―、借りるね」
「あぁ」
まるで逃げるようにそう告げて離れた私に、春希は棚から取り出したタオルを渡すと、ドアを開けて出て行った。
「……っ」
ドアが閉まりきった瞬間、私はズルズルとその場にしゃがみ込んで、胸の辺りをギュッと掴む。
こんなの困る。
だって、火傷をした手よりも、おでこよりも、胸の方が痛い。
ヒリヒリズキズキと痛むその原因が何なのかはよく分からないけれど、松元さんの言った言葉が気になってしまう。
「別れ話なんて……どうして?」
しゃがみ込んだまましばらくそこから動けずに、さっきまで春希が触れていた自分の手を、ギュッと握りしめていた。