犬と猫…ときどき、君
まさに烏の行水。
とにかくここでゆっくりとしてはいられないから、大急ぎで髪と体を洗った私は、シャワーを止めて髪の水を少し切って、脱衣所に出る。
するとそこには、タオルと一緒に、ロンTとパーカーと、ジャージが置かれていた。
「……」
これを、着ろって事だよね?
だけどやっぱり気がひけるから、さっき着ていた服を着られないかと、徐にそれを持ち上げて広げて……。
「絶対ムリ」
やっぱりムリだと諦めた。
コレ、シルクなんだけど……落ちるかなぁ。
お気に入りのシルクのチュニックには、コーヒーの大きなシミが出来ていて、自業自得とはいえ若干落ち込んだ。
「はぁー……」
やっぱり溜め息しか吐き出せない私は、春希が用意してくれた服に腕を通して、鏡の前で髪の毛を整える。
「あ、お化粧ポーチないや」
昔は散々見せてきたスッピンだけど、それはもう昔のことすぎて、今はさすがに気がひける。
「でも、しょうがないよね」
取り合えず、お化粧直し用のポーチに化粧水とファンデはあるから、それで何とかしよう。
「……よしっ!」
鏡の中の自分を見つめながら、なぜか気合の言葉を口にして、少し長い袖と裾をひと捲りした私は、廊下をペタペタと歩いてリビンに戻った。