犬と猫…ときどき、君
「色々お借りしました」
「……おー」
リビングのドアを開けると、春希はちょうど誰かとの電話を切ったところだった。
もしかして、松元さんかな?
そんな余計な事を考える私に向き直って、それをパタンと折りたたむ。
「タオルとか、洗濯機に放り込んじゃったけどよかった?」
「あぁ。今やっと今野に連絡ついた」
「あー……ごめんね。ありがとう」
「ただ、もう少しかかりそうだって。交通事故のオペだと」
それだけ言うと春希は、そのままローテーブルの置いてある場所まで歩いて行って「そこ座って」と、床に敷いてある薄茶色のラグの上を指差した。
何だろう。
春希の行動に怪訝な表情を浮かべながらもそこにペタンと腰を下ろすと、真っ直ぐに向けられるその瞳に、少しだけ体が緊張する。
そんな私に、ゆっくりと春希の指が伸ばされて……。
「紅くなってる」
「え?」
「痛みは?」
「……平気」
濡れたままの前髪を、撫でるように避けた春希。
そこにそっとあてられたのは、タオルで包まれた保冷剤だった。
「ホントごめん。痕は残らないと思うんだけど……そういう問題じゃないよな」
大事じゃないのに、顔を顰めて深い溜め息を吐くから、申し訳ない気持ちになってくる。
「ううん、私が悪いんだよ。だって、普通嫌がるし、怒るよ」
「……」
「ごめんね」
その言葉を聞いた春希は、小さく頭を振って下を向いてしまった。
私のおでこには、春希の手が添えられたまま。
その状態で、黙り込んでいるのって、すごく気まずくて……。
「ねぇ、城戸?」
「ん?」
こんな事を、私が聞いていいのかは分からない。
でも、やっぱり気になってしまってダメなんだ。
「松元さんと……別れるの?」
静まり返った部屋にわずかに聞こえる、外を走る車の音。
道路に積もっている雪がビシャビシャと跳ねる音が、自棄に耳につく。
「そのつもり」
「……どうして?」
だって、大切にするって言ったじゃん。
「どうしてって、色々だよ」
自嘲的に笑いながらそう言う春希に、少しの違和感を覚えるのは、私の考えすぎ?
「もしかして、留学するから別れるの?」
「……」
黙り込んでしまった春希にかけたその言葉は、どう考えても余計なお世話だし、私には関係ないんだけど。
それが原因だとしたら、なんだか悲しいと思った。