犬と猫…ときどき、君

私は遠距離恋愛なんてしたことがないから、その気持ちが分らないのかもしれないけど……。


それでも、あれだけ自分が傷付いた恋愛の終末が、嫌いになったからとかではなく“距離”だとしたら、それってやっぱり、少し悲しい。

――なんて、自分勝手な考えだけど。


でもそんな私に、春希は言ったんだ。


「留学はあんまり関係ない。ただ、気持ちがないだけ」

「それって、もう好きじゃないって事?」

こうして春希と松元さんのことを話すのは、もちろん初めて。


だけど、何となく……。

これが最初で最後になるんじゃないかって、そんな風に思えたから。


「……そうだな」

「でも、好きだったんでしょう?」

聞くのが怖くて聞けなかった春希の気持ちを、逃げずに聞いてみたいって思った。


すぐ目の前には、春希の黒い瞳。


「城戸?」

「……」

春希が何も言わないから。

だからその名前を呼んだのに、静かな部屋に私の声が響いた瞬間、それがわずかに揺れた気がした。


「……必要だった」

「え?」

「俺にとってアイツは、必要な存在だったんだよ」


――“必要な存在”。

真っ直ぐに取ったら、それは最高の褒め言葉なのかもしれない。

でもさっきから、何かがおかしい。

それが何かと聞かれたら、答えられないんだけど……。


漠然とした違和感が、さっきから胸を変にしめつける。


「ねぇ、城戸」

それが気持ち悪くて、もう一度その名前を呼んだ瞬間、少し離れたテーブルで私の携帯が小さな音を立てた。

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