犬と猫…ときどき、君
「携帯鳴ってる」
「……」
「早く出ないと切れるぞ」
春希は保冷剤をあてていた手を離して立ち上がると、携帯を取って私に手渡す。
受け取ったそれを開くと、着信は今野先生からで、チラッと春希を盗み見すると、目が合ってしまった。
「出ろよ」
そう言って何故か笑うから、結局胸のつかえは取れないまま、私は通話ボタンを押した。
「もしもし、芹沢先生? 連絡できなくてごめん」
「ううん、お疲れ様。大変だったね」
さっきまで、どこかフワフワとしていた気持ちが、今野先生の声で一気に現実に引き戻される。
「今終わったから、城戸の家まで迎えに行くよ」
「うん。でも大丈夫? 疲れてるならまた別の日でも……」
「平気。てゆーか、疲れてる時こそ芹沢先生に逢いたいんだけど」
「……っ」
クスッという笑い声と共に聞こえた、今野先生の言葉。
それにドキッとして……。
外まで聞こえるはずのない胸の音に動揺して、思わず春希に視線を向けてしまう。
だけど春希は目が合った瞬間、それを気にする様子もなく立ち上がって、気を遣ったのかリビングから静かに出て行った。