犬と猫…ときどき、君
今野先生と食べるゴハンは美味しくて、一緒に過ごす時間は楽しい。
春希の言葉の続きが気にならないと言ったら嘘になるけれど、それでも一人でいる時よりは確実にその事を考えなくて済む。
それがいいことなのか、悪いことなのかは微妙なところだけど……。
食事も終わって、ひと段落した頃。
今野先生が淹れてくれたコーヒーの香りを嗅ぎながら、どこかボーっとしていた。
もちろん、コーヒーでさっきの春希との事を思い出してしまったせいもあるんだけど、それよりもちょっと手持無沙汰で……。
お皿洗いに志願したら、「手を火傷してる人にさせるワケにいかないでしょ?」と、スポンジを取り上げられ、挙句の果てには「自然乾燥派だから」と、布巾まで没収されてしまった。
だからこうして、キッチンから響くカチャカチャという食器洗いの音を、申し訳ない気持ちで聞きながら、一人ソファーに座っている。
そんなに気にするほどの火傷でもないのになぁ……と、私が言ったところで今野先生が「じゃーどうぞ」と皿洗いを替わってくれるとも思えないし。
だから、何となくその辺に散らかっていた本をまとめたりしてみたんだけど。
とうとうやる事がなくなってしまって、せめて今野先生のところに行こうかと、立ち上がりかけた時だった。
「あっ!! そういえば」
そんな声がキッチンから聞こえて、水が止められる音がした。
「うちの病院に来るんだって?」
「え?」
それに続いて聞こえた言葉に、私は声を失ったように、何も言えなくなってしまったんだ。
――“うちの病院”って?
「今日院長に聞いてビックリしたよ。城戸も何も言わねーし。でも、残念だよな……。いい病院なのに、閉院するなんてな」
「――……っ」
「まぁ、こっちとしては胡桃みたいな先生に来てもらえると助かるけど」
それが、春希の言葉の続き。
俺がいなくなったあと――……
“うちの病院はなくなる”
“芹沢は今野がいる病院にお願いした”
それが、あの後に続く言葉。
どうしよう。
「胡桃? どうした?」
「ううん……。ちょっと頭痛くて」
「大丈夫か? じゃーそれ飲み終わったら送ってくよ」
「うん。ありがとう」
私、泣きそうだ……。