犬と猫…ときどき、君
春希は悪くない。
きっと彼なりに一生懸命最良の方法を考えた結果なんだと思う。
それは分かるんだけど……。
「ねぇ、どういうこと?」
次の日の朝、火傷を気遣って声をかけてくれた春希に、私は思わずそんな言葉を返してしまった。
「この病院なくなるんだってね」
「……」
「私、自分の再就職先くらい自分で探せるけど」
「悪い……」
「マコと、他の子達はどうするつもり?」
「篠崎の病院にお願いしてある」
何……それ。
いつからそんな事が決まっていたの?
「ねぇ、どうして何も相談してくれなかったの?」
私の目を真っ直ぐ見据えた春希は、ただ一言、「ごめん」と謝罪の言葉を口にして、下を向いてしまった。
何かもう、よく分からないや……。
「もういい」
「……」
「城戸の気持ちは、よく分かった」
最初は四人で始めたこの病院も、篠崎君と栗原がいなくなって、いつの間にか春希と私の病院になったと思っていた。
二人だけじゃなく、マコもいて、ミカちゃんとサチちゃんとコトノちゃんもいて――私にとっては、本当に大切な場所だった。
だけど、城戸はそんな風には思っていなかったのかな?
大変だと思うけど、春希が留学しても何とか頑張ってここを続けて、いつか帰って来た時に、また一緒に働けたらって、私は勝手にそんな事を考えていた。
でも、春希は違ったんだね――……。
「色々ありがとう。でも、あとは自分で何とかするから」
ごめんね。
こんなの八つ当たりだって、自分でも分かっているんだけど。
「城戸はいつまでここで働くの?」
昨日今野先生に聞いた話しだと、この病院は四ヶ月後にはもうなくなって、それと同時に、私は彼のいる病院で働き始めるらしい。
「三ヶ月後まではここにいる。そのあとの一ヶ月は、日本で色々準備して……」
「分かった。じゃー、他の子達にもそう話しておくね」
春希の言葉を遮ってそう口にした私は、最低だ。
ただ、春希の口から、春希がいなくなるという事実を聞きたくなくて……。
目の前で苦しそうに顔を歪める、愛しいはずのこの人に、労いの言葉も、激励の言葉もかけてあげる事が出来ないなんて、私は本当に自分本位で最低の人間。