犬と猫…ときどき、君
――だけど。
「城戸が何も言わないなら、俺も言わない方がいいんだろうと思ってたけど」
ポツリと、まるで独り言のように呟かれたその言葉に、私はゆっくりと顔を上げた。
「胡桃。この病院の事で、胡桃が知らない事ってない?」
「え……?」
「城戸と篠崎が、絶対に胡桃にやらせなかった仕事ってない?」
一体、何の話をしているの……?
「城戸って、この病院を無くしてまで留学したかったと思う? そもそも、そんな中途半端な気持ちで、横山先生の大切な病院を引き継ぐような奴かな?」
「……」
「もしも、その裏に他の理由が隠されていて、それがあいつがここからいなくなる原因だったとしたら」
――聡君の言葉の意味が分からない。
「あいつは本当に大バカだと思う」
言葉とは裏腹な優しい笑顔に、胸が変な音を立てた。
まるで何かに気付けと警告しているかのような、聡君の言葉。
「聡君、それってどういう意味……?」
「さぁ。俺の考えてる事も、あくまで憶測でしかないから」
「……」
「まぁ、もしも何か裏があったとしても、本人は絶対白状しないだろうけど」
それはきっと、聡君からのヒントだったんだと思う。
「聡君、ごめん。病院、お願いしてもいいかな?」
私の言葉に「行っておいで」と優しく笑う聡君にお礼を言うと、私はコートを掴んで病院から駆け出した。
聡君は、きっと何かを知っている。
そうじゃなければ、あんなことは絶対に言わないはず。
だけど聡君が言うように、何も言わず去って行こうとしている春希を問い詰めたところで、今更本当の事を言うはずがないと思った。
それなら――……。