犬と猫…ときどき、君
「あのっ!! 篠崎先生を……息子さんの方を呼んでいただけませんか!?」
「は?」
「お願いします!! どうしてもお話しないといけない事があって……!!」
突然ワケのわからない事を、息を切らせながら口にする私に、目の前の受付の女の子が怪訝そうに眉を顰めるのは仕方がないと思う。
「診療中だということは分かっているんですが、取り次いでいただくだけでもいいので!!」
自分でもこんな非常識な行動を取るなんて、本当に馬鹿げているし恥ずかしいことだと思う。
だけど、さっき篠崎君の大きな家に行ってインターホンを押したら、家政婦さんに「透さんは病院です」と、怪訝そうに言われ、門前払いを食らってしまって……。
「お願いします」
結局迷惑を顧みずに、こうして大きな病院の受付で頭を下げていた。
そんな私を、やっぱり迷惑そうな顔で見た受付の女の子は「少しお時間を頂くかもしれませんが」とだけ口にして、どこかに内線電話をかけ始める。
その様子にホッとしながら呼吸を整えて、未だに整理出来ていない頭で、色々な事を考えた。
そもそも、何を聞けばいいの?
“私に秘密にしている事ってなに?”
“春希がいなくなった本当の理由を教えて”
聞きたい事はその二つなんだけど、もしも篠崎君が何も知らなかったら?
たくさんの疑問符で頭がパンクしそうになった頃。
「芹沢」
俯く私の頭上から、いつもとは少し違う、篠崎君の声が聞こえた。
「美人な女の人が受付に来てるって聞いて、猛ダッシュで来ちゃった」
「……」
「どうしたの? 何か急ぎの用事あった?」
目の前で、いつもと同じように振る舞おうと笑顔を浮かべているけど、やっぱり違う。
「あのね、篠崎君」
そう口にした自分の声は、驚くほどに掠れていて、ゴクリと飲んだ唾も、喉の辺りでつっかえている気がする。
「春希の事で、聞きたいことがあるの」
私の言葉に驚いたのか、それとも“春希”と、彼を呼んだ事に驚いたのか。
目の前の篠崎君は、元々大きな茶色い瞳をますます大きくして……言ったんだ。
「家政婦さんに言っておくから、俺の部屋で待ってて。今やってる診察終ったら、すぐ行く」
それに頷いた私は、受付の女の子にお礼と謝罪の言葉を口にして病院を出た。
病院を出て、裏に回って、道を一本挟んだ所にある大きな家のインターホンをもう一度鳴らす。
すると、さっきとは打って変わって愛想のよくなった家政婦さんがドアを開けてくれて、そのまま篠崎君の部屋に通された。