犬と猫…ときどき、君
「“サトルクン”」
「――へっ?」
“聡君”?
ものすごくドキドキしている私の目の前で、少し気まずそうに下を向いた彼の口から出てきたのは、思いもよらない人物の名前だった。
「聡君が、どうしたの?」
「あいつ……何?」
“なに”って。
「イトコだけど」
「は?」
「え? イトコ」
「……」
「……」
私の回答が、よっぽど予想外だったのか。
「……ふっざけんなよっ!!」
図書館で大声を出して頭を抱えた城戸春希を見ながら、私はただただ、目を瞬かせるしかない。
一体何をそんなに。
「イトコだぁ!?」
「え……うん。そうだけど」
「それを早く言えっ!!」
「は!?」
呆気にとられる私の前で、そんな理不尽とも思える一言を吐いた後、
「だぁー!! くそー……」
城戸春希は何故か脱力したように項垂れてしまった。
「ど、どうしたの?」
思わず彼に向って手を伸ばした私は、パッと上げられたその顔を見た瞬間、伸ばしかけのその手を止めた。
だって……。
顔を上げた城戸春希が、さっきまでのバカみたいな表情を引っ込めて、真っ直ぐ私の目を見据えるから。
その瞳に、心臓がドクンと大きく跳ねて、息を呑んだ。