犬と猫…ときどき、君
昔、何度か来たことのあるこの部屋には、ベッドと机と大きな本棚。
春希のシンプルな部屋とは違って、そこに小物がバラバラと散らばっていて、その中に混ざっていたマコの私物に、何だか緊張がほぐれる気がした。
クルリと部屋を見廻すと、机の上にはひと際目を引く何台ものパソコン。
篠崎君、パソコンオタクだって言ってたっけ……。
大学時代に春希から聞かされていたプチ情報を思い出して、小さな笑いが漏れる。
きっと、というか絶対に。
春希が何度も足を踏み入れているこの部屋は、春希の煙草の匂いがわずかに混じる。
その香りに少しだけ胸が軋んで、もしかしたら最近ここに来たのかもしれないなんてバカみたいなことを考え始めた時。
背後の扉がゆっくりと開いて、私はその方向に目を向けた。
「遅くなってごめんね。って、みっちゃんはお茶も出してくれなかった!?」
“みっちゃん”と呼ばれているらしいあの家政婦さんは、篠崎君が言うには、マコが大のお気に入りで、その他の女の襲来にちょっとヤキモキしていたらしい。
「ごめんね。マコちんの友達だって言っとくね」
そう言って笑う篠崎君に、私は曖昧な笑顔を浮かべ、話をどう切り出そうかと考える。
だけどそれに気が付いたのか、目の前に腰を下ろした彼は、困ったように笑いながら言ったんだ。
「話せる事は全部話すよ」
「……」
「だって俺、ハルキュンのこと大好きだし」
篠崎君は、こうなる事を望んでいたようにも思えるくらい、スッキリとした表情で私を見据える。
だから私は一つ息を飲んで、ゆっくり口を開いた。
「篠崎君。うちの病院の機械って、どこから借りてるの?」
「……」
「よくよく考えたら、私そんな大事なことを知らなかった」
聡君に言われて、必死に考えて、やっと思いついた“私がやっていなかった仕事”。
それは、“経理”と“リース機材の管理”だった。
とはいえ、経理は会計士さんにお願いしていて、その報告は受けていたし……。
だけど機械に関しては違った。
医療機器は驚くほど高額で、私達の年齢でそれを自力で買いそろえられるのは、親の支援がある大病院の子供くらい。
篠崎君は大病院の息子ではあるけど、親の援助は受けなかったと、あの病院に入った時に言っていた。
だから、あの機械はリースとしてどこかから借りているはずなんだけど……。
私はその契約書を見たこともなかったし、メンテナンスに立ち会ったことさえなかった。
いつも春希か篠崎君が「どうせ機械のことはわからないでしょ?」って、からかうように言って私をその場から追い払っていた。
本当にその通りだったし、使い方さえ分かればいいと思っていた。
だけど、それって……。