犬と猫…ときどき、君


覚悟を決めたはずだった。

全部きちんと受け入れようと思っていた。


それなのに――……。


「ごめん」

「……」

「ごめんね……頭が、上手く回らない……っ」

真っ直ぐに私を見つめる篠崎君の目の前で、こんな風に嗚咽を漏らして咽び泣く私は、本当にバカみたい。


「 私っ、全然気づかなくて……っ」

私が知りもしなかったその事実は、あまりに悲しい話だった。


徐に口を開いた篠崎君が、最初に話してくれたのは、大学時代の春希の葛藤。


聡君との事で、春希を不安にさせていたのは知っていた。


だけど、松元さんによって煽られて、大きくなったそれが、春希の心をそんなに苦しめていたなんて、気付きもしなかった。


ううん……。

もしかしたら、気付こうとさえしていなかったのかもしれない。


あの頃の私は、自分の気持ちを抑え込む事に手いっぱいで、春希と松元さんのことから逃げ回ってばかりいた。

自分と春希のことからも、松元さんのことからも目を背けて……。


だけど、それだけでは終わらなかった。


苦しくて胸を抑える私に、篠崎君は大丈夫かと、気遣うように声をかけたあと、「ハルキが抱えてたもの、芹沢には全部知ってて欲しいから」と、全ての事を洗いざらい話してくれたんだ。


裏サイトに私の話が書き込まれないよう、春希がそれに関わっていると思われた松元さんと付き合い始めた事。

サイトを監視しながら、書き込みを消し続けていた事。

管理人を探し出して、サイトを潰した事。

私の居場所を作る為にあの病院を引き継いで、そこを守るのに、松元さんと付き合い続けていた事。


それから――……。


「あいつ、俺がもう止めようっていう度に“芹沢の本当の理解者が見つかるまでは”ってバカみたいに笑って言ってた」


私に今野先生という“理解者”が見つかったから、離れていったのだという事も。


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