犬と猫…ときどき、君
「急に押しかけちゃってごめんね。あと、ありがとう」
そのまま診療に戻るからと、私を門までお見送りに来てくれた篠崎君は、私の言葉になぜか曖昧な笑顔を浮かべ、困ったように頭を掻く。
「……どうしたの?」
もしかして、まだ話きれていないことがあるとか?
ドキドキしながらその顔を見上げる私の目の前で、篠崎君は「司ちゃんの事もあるからアレだけど」と、溜め息交じりに話し始めた。
「実は、昨日ハルキがうちに来てたんだけど」
「……うん」
やっぱり。
何となく、あの煙草の香りでそんな気がしていた。
それにこっそりと胸を高鳴らせる私の目の前で、篠崎君は、
「もしも可能だったら、ハルキの事助けてやってほしいんだ」
そんな言葉を口にした。
「ハルキ、松元サンにまだ付きまとわれてるらしくて……俺もよく分かんねーんだけど、何かしんどそう」
この申し訳なさそうな表情は、私に対してというよりも、今野先生に対してのような気がした。
今野先生を“司ちゃん”と呼ぶほど好いている篠崎君は、春希の事も大好きで、自分の招いてた行動が、こんなところでも人を苦しめている事に今更気が付いた。
「ごめんね」
「いや、俺こそ」
お互い申し訳なさそうな表情で顔を合わせて、クスッと笑い合う。
“男女の友情はない”という人もいるけれど、これは友情だと思うなぁなんて、のん気に考えながら、私はまた小さく笑った。
「どうせね、一回松元さんとも話がしたかったの」
「……」
「だから、今から連絡付いたら会って来ようと思って」
もしかしたら――というか、絶対に、松元さんは私と話なんてしたくないだろうけど、それでも私は話をしてみたかった。
「私、知らない間にあの子のこと傷つけてたのかもしれないし」
それに渋い顔をした篠崎君が、「あれはあーゆー性格なんだと思うよ」なんて言うから、また笑ってしまった。
篠崎君と別れて、少し歩いた辺りでコートのポケットから携帯を取り出す。
大学時代、サークルの連絡をする為に登録してあった彼女の電話番号を、消すに消せないままにしておいた事が、まさか今役立つとは。
まぁ、番号が変わってしまっていたら意味がないんだけど。