犬と猫…ときどき、君

「ねぇ」

「んー?」

頬杖を付いたまま返事をする城戸春希の横顔に、窓から差し込む夕日が少しだけ影を落とす。


あぁ、やっぱり綺麗だなぁ……。

そんな事を思いながら、私はずっと疑問に思っていた事を口にした。


「どうして今は“胡桃ちゃん”?」

それに僅かに表情を緩めたあなたは、身体を前に乗り出して、顔を覗き込む。


「じゃー……二択な?」

「え?」


“ニタク”?


「マルイチー」

「へっ?」

「“くるみ”って呼ばれんの、嫌いだって言ってただろ?」

「う、うん?」

「俺がみんなの前で“胡桃ちゃん”なんて呼んだら、みんなが真似して、そう呼ぶと思ったからー」

「……」

「マルニー。俺だけが、特別でいたかったからー」

ふざけたような口調とは裏腹な真っ直ぐな瞳が、私を見据える。


「どっちだと思う?」

「……っ」

息を呑んでしまったのは、ゆっくりと伸ばされた彼の指が、私の髪をサラリと撫でたから。

その手に昨日感じた躊躇はもうなくて、それにまた、胸が甘く疼いた。


「どーっちだ?」

あなたは、本当に不思議。

柔らかい声と表情に、ギュッとなる胸の辺り。


「――両方」

「……」

「両方でしょう?」


私のその回答にフッと笑ったあなたは、

「さぁー? どうでしょう」

相変わらず飄々と、そんな言葉を口にした。


あなたのそういうところが、凄く好きだと思った。

凄く心地がいいって、心の底から思った。


「これからは?」

「ん?」

「これからは、何て呼ぶの?」

「……」


そんなあなただから、私は初めて、


「“くるみ”がいい」

「え?」

「“胡桃”って、呼んで欲しい」


私の名前を、何度も何度も呼んで欲しいって……そう思ったんだ。

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