犬と猫…ときどき、君


リビングよりも空気が冷たく感じる玄関で、そう言えば靴をしまっていなかった事を思い出して、それを少し整理し始めた頃。

再びチャイムが鳴らされて、俺はドアのカギを開けた。


「おー、どうしたよー……」

突然の仲野襲来には驚いたけど、ここまではよかった。

“よかった”というか、現実的に起こり得ることだとは思ったから、何とか対応できていた。


だけど……。


「こんばんは」

何故かちょっと気まずそうにそう口にした、仲野の後ろに立っていた人物に、俺は絶句した。


「……こんばんわ」

仲野と全く同じ言葉を口にして、背後からオズオズと顔を覗かせるソイツに、眉間のシワが一気に深くなる。


「仲野」

「……はい」

「どーゆーこと? なんでその女がいんの?」


俺だって、人様に対してこんな言い方はしたくないけど。

コイツと直接会うのは、胡桃がコーヒーをぶっかけられたあの日以来だったんだから、こんな口調になるのも仕方がない。

むしろ、この程度で済んでる事を褒めて欲しいくらいだ。


「すみません」

俺の言葉に謝罪のしたのも、何故か仲野で。


「何か用?」

不機嫌な声のままその顔を見下ろせば、何故か目の前の松元サンも不貞腐れたように唇を尖らせる。


本当に何なんだよ。

それでなくてもこっちは色々あって気が滅入ってるのに……。


思わず大きな溜め息を吐いて、頭をボリボリ掻きむしった俺の目の前で、仲野が何故か彼女の背中をポンポンと叩いた。


――何だ?


不思議なその行動に、眉間のシワをますます深くしたその瞬間、

「ごめんなさい」

そんな小さな声が、少し肌寒い玄関ホールに響いたんだ。


「……は?」

「だから、すみませんでした」


こんなふてぶてしい謝罪は初めて聞いた。

つーか、何に対しての謝罪だ?


相変わらずブスッとしたままの松元サンは、その二言しか口にする気がないのか、それっきりすっかり押し黙っている。


「仲野」

「は、はい」

「何コレ」

もう、保護者みたいな仲野に、解説をお願いするしかないと思った。

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