犬と猫…ときどき、君
「いや、俺もきっかけはよく分からないんですけど……」
そう口火を切った仲野は、ここまでの経緯を自分が知っている範囲で話し始める。
どうやら、夕方突然、研究中の仲野の所にやってきた松元サンは、何故か胡桃の文句を散々愚痴り出したらしい。
「あの人は何もわかってない」だの「やっぱり許せない」だの……。
だけど、胡桃に対する変な感情を持っていない仲野は、それを聞いていたら段々イラついてきたらしく。
「え? お前、怒鳴ったの?」
「はい。つい……」
普段物静かな仲野が、目の前で相変わらず不機嫌そうなこの女を怒鳴りつけたらしい。
そしたら、松元サンはみるみる涙目になって、大泣きし始めて、今度は仲野に八つ当たり。
だけど、何とかなだめて泣き止んだ松元サンが、ポツリと言ったそうだ。
「ハルキさんは、いついなくなるの?」って。
俺からしたら、心底“何だそれ”って感じの話だけど、やっぱり今までずっとこのクソ女を見てきた仲野は違ったみたいで。
「きっと、もう一回城戸さんと話がしたいんじゃないかと思って。だけど、また変なゴタゴタを起こされるのは俺も嫌だったんで、一応何をしに行くつもりなのか聞いたんです」
ふーん。
「そしたら、“謝りたい”って」
「……あっそ」
その話を聞いても、やっぱりこの女を信用できないのは、胡桃が今まで散々されてきたことのせいだと思う。
「つーかさ、謝る相手違うだろ」
「……っ」
「俺じゃなくて、胡桃に謝れ」
俺の口を吐いて出しまう言葉は、どうしても刺々しくて、こんな風に謝りに来た人間に向けられる言葉ではないかもしれないけど……。
だけどコイツは、それなりの事をしてきたんだ。
「何か他に言うことある?」
黙り込んだままの松元サンは、ずっと俺から視線を逸らしたまま。
「まだ何か話あるなら、まずは胡桃に謝ってから出直して。胡桃はお前みたいな奴の話でもちゃんと聞いてくれるだろうから。ただ……」
「……」
「行く時は絶対に、仲野と一緒に行け」
そうじゃないと、コイツはまた何をしでかすか分からない。
隣の仲野は、少し困ったような表情で松元サンを見つめたあと、俺に「わかりました」と、小さく頷いた。