犬と猫…ときどき、君


てっきり、それで話は終わりだ思った。

だから、部屋の片付けを理由に、二人を帰そうとしたのに。


「――りだったもん」

「あ?」


下手したら、聞き逃してしまいそうなほど小さなその声。


それに顔を顰めると、そんな俺を睨み上げ、やっと視線を合わせた松元サンがもう一度その口を開いた。


「ちゃんと行くつもりだったもんっ!! ちゃんと行くつもりだったけど、ハルキさんの事好きなままだと、芹沢さんになに言うか自分でも分らないから……っ」


ボロボロと涙を零す松元サンのその顔は、今まで見たこともないような不細工な泣き顔で、


「だからその前に、ちゃんとハルキさんに別れるって、諦めるって言いに来たんでしょ!? それにちゃんと謝りたくて来たのに……!!」


だけど何か、その方が断然いいと思った。

もちろん、恋愛感情なんて死んでも湧かねーけど。


「ハルキさんはすごい怒ってるし、仲野もムカつくし……っ!! だけど私も変わりたいから……頑張って話したのに!!」


言ってる事は理不尽すぎるし、ハッキリ言って逆ギレだし。

ホント、何だコイツって感じだけど……。


“胡桃がどれだけ頑張ってきたか、アンタは知ってる?”

俺のその言葉を聞いたコイツが、自分なりに考えて出した結論なんだと思った。


「ホントムカつく!! 結局みんな変わらないじゃん!! それだったら――」

「分かったから」

「え……?」

「じゃー、これで“別れた”って事でいい?」

「……」

「いいんだろ?」

「……はい」


コイツがしてきたことはやっぱり許せないけど、それでも誰かが許してやって、もう一回チャンスをあげないと。


そうじゃないと、頑張る意味がなくなってしまう。


そんな風に思うのは、俺が自分を許せていなくて、それがどれほどシンドイ事か、嫌という程思い知っているからかもしれないけど。


「よし、じゃー帰れ」

「は?」

「俺疲れてるし、部屋の片づけしないとだし」

その言葉に、やっと余裕が出て来たのか、仲野がキョロキョロと部屋を見回し始める。


「部屋、もう何もないですね」


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