犬と猫…ときどき、君


自分でも、どうしてこいつらに本当の事を話してしまったのかは分らない。

ただ、一瞬胸が、どうしようもなく苦しくなって、息が出来なくて。

気が付いた時には、もうその言葉を吐き出していた。


「そのこと、芹沢さんは……?」

「知らねーよ。言うつもりもないし。俺の一大決心なんだから、お前らも死んでも言うなよ」


笑いながらそう口にする俺に向けられる二人の瞳は、何故か辛そう。


「どうして……言わないんですか?」


そんな中、それまでだんまりを決め込んでいた松元サンの声が、静まり返った部屋に響いて、別に本当の事なんて言わなくてもよかったのに……。


「好きだから」


俺の口を吐いて出たのは、聞いている方が恥ずかしくなるような、そんな言葉だった。


「だったら、どうしてそれをちゃんと言わないんですか!? ちゃんと気持ち伝えてみたらいいじゃないですか!!」

「伝えたよ」

「え?」

「まぁ、あの時はまだお前の付きまとい受けてたから、状況はちょっと違うのかもしれないけど」

「……」

「胡桃は今野を選んだワケだし、俺もそれが一番いいと思ってる」

もちろん、まだきっぱりとケジメをつけられたわけではないけど。


「嫌なんだよ」

グッと寄せられた松元サンの眉根に、つい笑いが零れててしまう。


「俺の身勝手で、胡桃を悩ませんの」


俺が裏切って、傷付けた胡桃。

それにも拘らず、胡桃は優しいから、きっと自分を責める。

例え俺を選ばないと分かっていても、多少は悩むだろ。


その悩んでいること自体が、きっと胡桃にとっては許せない事で、今野に対して後ろめたさとか、申し訳なさを抱く事だと思うんだ。


「だから言わないし、言う必要もない」


言わないでいなくなるのが、俺なりに考えた“自分のため”で、“胡桃のため”。


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