犬と猫…ときどき、君
「――本当ですか!? ありがとうございます!! では後日改めて……はい。よろしくお願いします」
春希がいなくなるまで、あと一週間と二日。
まだまだ物は足りないけれど、それでも少しずつ色んな物が集まり始めていた。
「えっと、心電図はオッケー、と。よかった……」
机の上に置かれた最低限必要な物がズラリと書かれたリストに、また一本横線が引かれた。
それにホッとしながらも、口を吐いて出るのは溜め息で。
小さい物や入れ替わりの激しい物、古くても使える物は比較的集まるものの、やっぱり高価なものはなかなか揃わない。
「せめてエコーとレントゲンだけでも何とかならないかなぁー……」
幸いな事に、ここは母校が近いから、最低限のことさえ出来れば、あとは紹介状を書いて、大学に併設されている病院にお願いするという手もある。
だけどそれだと、急患とか、夜中に急変した子に対応しきれるかが心配だし、何だか無責任な気もして。
「んー……。でも、そんなこと言ってる場合じゃないよねー」
どうしたって、悩みは尽きない。
もうこの辺一帯の病院には、あらかたお伺いをたててしまったし、少し範囲を広げないとダメかな……。
妙に広く感じる一人きりの医局で、椅子をキーキー鳴らしながらまた考え込んで、
「はぁー……」
また大きな溜め息を吐いて。
毎日これの繰り返し。
今日はマコも休みで、いたらいたでうるさいけれど、いないとやっぱりちょっと淋しい。
何気なく視線を向けた陽だまりのランには、入院犬のラスちゃんと、気持ちよさそうに伸びをするサチちゃんの姿。
春希がいなくなってから、私の負担を少しでも減らそうと、アニテクの三人が本当に頑張って働いてくれていて、それに心から感謝しながらも、どこか申し訳ない気持ちになる。
獣医もそうだけど、アニテクの仕事って色んな意味で辛いと思う。
今はほとんどの子が動物看護の専門学校を出て、耳掃除とか採血とか、注射の打ち方だって習うのに、実際にその“医療行為”を、病院でやることは禁止されている。
きちんとした国家資格がないから、仕方がないと言えば仕方がないんだけど……。
“動物の命を救いたいのに、やる事は雑用みたいな事ばっかり”――そんな風に愚痴っていたマコの言葉を、いつも思い出す。
病院によっては、本当に使い捨ての人材みたいにこき使われて、それなのにお給料も安いし。