犬と猫…ときどき、君
診察室裏のそのスペースから、主のいない検査室を抜けて、左手にあるドアの先の通路を進む。
そこまでは関係者しか入れない場所。
もう一枚のドアを開けると、そこはガラス張りの中庭に面する、誰でも通る事が出来る通路と交わり、その更に先。
小さな窓がはめ込まれたドアを開けて、二人をその部屋に招き入れた。
少し前まで春希がいたその場所に、松元さんと仲野君がいるのって変な感じ。
「それで、話ってなに?」
まだ明るいから、部屋の電気も点けないまま、徐に口を開いた。
冷静でいたいのに、私の言葉に反応して顔を上げた松元さんに、やっぱり胸がドキドキしてしまう。
「……」
「松元さん?」
本当に何なんだろう……。
当然のことながら、彼女がこうしてやって来ることに心当たりのない私は、少しだけ急かすようにその名前を呼んで、
「ハルキさんが」
「え……?」
思いがけず出された彼の名前に、胸がズキンと痛んだ。
だけど、それはまだ始まったばかりで……。
「ハルキさん、明後日いなくなっちゃうんです……っ」
続けられた彼女の言葉に、胸が変な音を立てる。
だって、一体何を言ってるの?
「ハルキさん、三十一日に出発なんて嘘で……だって、それが芹沢さんの為って……っ!!」
涙をボロボロと零しながら、自分でも整理しきれていない胸の内をさらけ出す彼女に、どうすればいいのかが分らない。
そもそも、まだ春希と松元さんは付き合ってるんじゃ……。
現状を全く理解できない私は、困ったような視線を仲野君に送る。
だけど仲野君は、少し苦しそうに、小さく笑うだけで。
「ハルキさんと別れて、その日に……言われて……っ」
全く意味が分らない。
それなのに、心が何かを感じ取っているのか……。
ギュッとしめつけられるような胸の痛みに、私は顔を歪めた。
そんな私の前で、松元さんはしゃくり上げながら言葉をどんどん繋げていく。