犬と猫…ときどき、君


診察室裏のそのスペースから、主のいない検査室を抜けて、左手にあるドアの先の通路を進む。

そこまでは関係者しか入れない場所。


もう一枚のドアを開けると、そこはガラス張りの中庭に面する、誰でも通る事が出来る通路と交わり、その更に先。

小さな窓がはめ込まれたドアを開けて、二人をその部屋に招き入れた。


少し前まで春希がいたその場所に、松元さんと仲野君がいるのって変な感じ。


「それで、話ってなに?」

まだ明るいから、部屋の電気も点けないまま、徐に口を開いた。


冷静でいたいのに、私の言葉に反応して顔を上げた松元さんに、やっぱり胸がドキドキしてしまう。


「……」

「松元さん?」


本当に何なんだろう……。

当然のことながら、彼女がこうしてやって来ることに心当たりのない私は、少しだけ急かすようにその名前を呼んで、

「ハルキさんが」

「え……?」

思いがけず出された彼の名前に、胸がズキンと痛んだ。


だけど、それはまだ始まったばかりで……。


「ハルキさん、明後日いなくなっちゃうんです……っ」

続けられた彼女の言葉に、胸が変な音を立てる。


だって、一体何を言ってるの?


「ハルキさん、三十一日に出発なんて嘘で……だって、それが芹沢さんの為って……っ!!」


涙をボロボロと零しながら、自分でも整理しきれていない胸の内をさらけ出す彼女に、どうすればいいのかが分らない。

そもそも、まだ春希と松元さんは付き合ってるんじゃ……。


現状を全く理解できない私は、困ったような視線を仲野君に送る。

だけど仲野君は、少し苦しそうに、小さく笑うだけで。


「ハルキさんと別れて、その日に……言われて……っ」


全く意味が分らない。

それなのに、心が何かを感じ取っているのか……。

ギュッとしめつけられるような胸の痛みに、私は顔を歪めた。


そんな私の前で、松元さんはしゃくり上げながら言葉をどんどん繋げていく。

< 606 / 651 >

この作品をシェア

pagetop