犬と猫…ときどき、君

それだけじゃない。

もう一つ、気付いてしまった事があった。


「何の“ごめんなさい”?」

まるで私を試すみたいに、甘い感覚を送り続ける今野先生の言葉の本当の意味。

それに、気が付いてしまった。


「今野先生、ありがとう」

「……なんのお礼?」

「“リハビリ”」

「……」

「気付くのが遅くてごめんね」

「――ホントだよ。何で分かったの?」

「だって、今野先生は無理矢理こんなことしないから」

「それって買い被りかもよ?」


やっといつものように、目の前でクスッと笑った今野先生が、何度か口にした“リハビリ”という言葉。


「もうちょっとで本当に襲うとこだったし」


私は、春希を忘れる為の“リハビリ”だと思っていたけれど、そうじゃなくて……。


「わかっただろ? 芹沢先生は、城戸のことを忘れることなんか出来ないんだって」


それは、私の本当の気持ちに気付かせるための“リハビリ”だったんだ。


「ホントに、ごめ……」

「あーもーやめて。謝らないで。やっぱりこんな事しなきゃよかった」


覆いかぶさっていた私の上から降りた今野先生は、「まぁ、いいもん見れたしいいか」と笑いながら、私の上に、脱ぎ捨てた自分のシャツをバサッとかける。



「想像以上にいい体だったなー」

「なっ!!」

「やっぱ無理やり抱いちゃえばよかったかなー」

こうしてふざけてみせるのだって、今野先生の優しさ。


「言っとくけど、最初からこれが最終目標だったんだからな。芹沢先生のことは好きだけど、これは愛だの恋って感情じゃない」

「うん……」

「だから、もしも城戸が芹沢先生の気持ちに応えられるようになったら、何も気にせずあいつのとこに行けばいいから」


――知らなかった。


「わかったらさっさと服着て。自制心崩壊しそう」


今野先生は、自分の気持ちに嘘を吐く時……こんなにも苦しそうな顔をするんだ。


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