犬と猫…ときどき、君
だけど私は、それに気づかないフリをした。
それは自分の為でもあったし、目の前のこの人が、それを望んでいるのが分かるから。
「取りあえず、シャワー浴びてきて。その後は……勢いで、城戸んとこでも行っとく?」
今野先生の気持ちを思うと、胸が痛むのは本当。
春希を想いながらも、彼に惹かれていたのだって本当。
そこに嘘なんてないし、嘘を吐けるはずもない。
――でも。
「……どうした?」
「春希、いなくなっちゃうの……っ」
一度溢れ出てしまった想いは、そう簡単には引っ込んでくれなくて、こんな自分を最低だと思いながらも、上手に言葉を止めることが出来ない。
「飛行機、ホントは今日なんだって」
「……何時?」
「え?」
「何時の飛行機?」
今野先生が大きく見開いた瞳で見上げた時計は、まだお昼前――十一時四十分を指しているけれど、飛行機の時間なんて分らない。
頭をただ横に振る私に、今野先生は「早く服着て」と一言だけ声をかけ、ワケがわからないまま分身支度を整えた私の手を取った。
「ちょっと、今野先生!? どこ行くの!?」
「空港」
「は!?」
だって、さっきまで映画を観ていて、そのあと……色々あって、今野先生をまた傷付けたことを反省して。
やっと少しだけ頭が落ち着いてきたところだったのに。
「え!? ちょっと待ってよ!!」
ワケが分らす慌てる私を、今野先生は「早く乗って」と無理やり車に押し込んだんだ。
しかも、走り出した車の中で、今野先生は怒ったように眉間にシワを寄せて、「ふざけんなよ」と低い声で言い放つ。
「ごめん……」
「芹沢先生じゃなくて……いや、芹沢先生もだけど」
なにそれ。
「城戸が一番ムカつく」
「……」
「ふざけんなバーカ、一人で逃げてんじゃねーぞアイツ」
ぶつくさと文句と言う今野先生は、春希の気持ちが分かっているんだろうか。
「今野先生?」
「あー?」
「……」
「なに?」
「ごめん、何でもない」
だけど、それを今野先生に聞くのは間違えているって、ダメすぎる自分でも思うから。
だから私は、ETCゲートをくぐって高速に乗った車の窓から、もの凄いスピードで流れていく景色を何も言わずに眺めていた。