犬と猫…ときどき、君
「降りて」
今野先生にそう声をかけれたのは、彼の家を出て一時間ほど経った頃だった。
「国際線の出発口の場所はわかる?」
「う、うん」
「じゃー、さっさと行って」
そのまま車から降りた背中をポンと押されて、よろけるように一歩前に足を踏み出す。
「早く行きなよ」
このまま行ってもいいの?
「……」
ううん。
行かないとダメだ。
きっと今野先生は、振り返れば無理やりにでも笑顔を作って“逢えるといいな”って、そう声をかけてくれる。
これ以上、彼の優しさに甘えちゃいけない。
ホント、今更だけど――……。
「ありがとう。春希、連れて帰ってくるから」
「楽しみにしてる」
今野先生の優しさを、無駄にはしないから。
走り出した私の背後で、車が走り出す音がした。
もう今野先生とは、こうやって二人で会うことはないと思う。
春希を引き留める事が出来たとしても、三人でなんて会えないのかもしれない。
だけど、もうグルグルと逃げ回って、人の優しさに依存して、大切な人達を傷付けるのは嫌なんだ。
ここまで来ても、春希には逢えないかもしれない。
もしかしたら、もう飛行機は飛んでしまったかもしれない。
――でも。
「行かないと」
小さくそう呟いた私は、混み合う人の間をすり抜けて、足早に出発口を目指した。