犬と猫…ときどき、君
「胡桃も気にすんな。てか、聞くな。色々腐る」
「……」
「ん?」
「結構、喋るんだね」
「は?」
「もっとクールなのかと思ってた。あぁ、別に悪い意味じゃなくてね。新発見」
城戸春希を見上げながら笑った私だったけれど、何故か集まったみんなの視線に戸惑いの声を上げた。
「え? な、何? 私、なにか変なこと言った!?」
「――いや、意外だなーと思って」
「へ?」
慌てる私を余所に、篠崎君が、その茶色い大きな瞳をクリクリさせて、そんな言葉を口にする。
「“意外”って?」
「芹沢って、ハルキの前だと何か柔らかいんだなぁって思って」
「やわら……かい?」
それはどういう意味?
小首を傾げた私に、篠崎君はにっこりと笑って言ったんだ。
「いや! すっかり“恋人”な雰囲気だねぇって事!」
「へっ!? こ、恋人っ!?」
「あれ? 違うの? 違うなら、俺立候補しちゃうけど」
「ふざけんなハゲっ!!」
「ハゲじゃねぇけどなっ!! つーか、何で怒ってるんでちゅかぁ? ハルキュ……痛ってーよ!! 蹴んなっ!!」
「ちょ、ちょっと!! 城戸君――」
相変わらずお調子者の篠崎君に、半ギレ状態で蹴りを入れた城戸春希を慌てて制したんだけど。
「え?」
わ、私?
なんで私まで睨まれるの?
「……帰る。篠崎、残りやるから皿片付けといて」
「はっ!? ちょ、ちょっと!?」
また私を一睨みした後、スッと立ち上がった城戸春希は、ジャケットのポッケに両手を突っ込み不機嫌そうにホールの出口に向かう。
「えっ……と、ごめん! 私も行くね!」
意味がわからないまま慌ててその後を追う私に、その場に残ったメンバー達は、それはもう、楽しそうな面持ちで。
「頑張ってね~☆ 低血圧不機嫌大王ハルキュンをヨロシクね~!」
そんな事を言いながら、ブンブンと手を振って、私を送り出した。
低血圧不機嫌大王。
彼らの言葉に、何故かいつも大アクビをしている城戸春希を思い浮かべながら、少し先を歩いて行くその背中をパタパタと追いかけた。