犬と猫…ときどき、君


「お荷物はこちらだけてよろしいですか?」

「はい」

「この大きさですと、機内にお持ち込みいただけますが、どうされますか?」

「あー……」

いや、どっちでもいいんだけど。


「じゃー、持って行きます」

「では、搭乗時間まで少々お待ちください」


何だか、ものすごくあっけない。

まぁ、こんなところで一波乱あっても困るんだけど。


出国審査はまだあるけど、そんなものに引っかかるはずもないし、こんなんで日本から出られるんだもんな。


「あと四十分か……」

結局飛行機に持ち込む事にした、小さなスーツケースをガラガラと引きずりながら、手元の時計を覗き込んで一人呟く。


さて、どうしようか。

少し悩んだけど、メシを食う気にもなれなくて、近くの椅子にストンと腰を下ろす。


「……」

平日でも、結構混むもんなんだな。

座ってはみたものの、特にすることもない俺はやっぱり手持無沙汰で、前を通り過ぎていく、たぶん旅行客なのであろう人の群れをボンヤリと眺めていた。


だけど、こうして暇にしていると、また色んな事が頭に浮かぶ。


篠崎キレるだろうなぁとか、また椎名に嫌われんだろうなぁとか、また嘘を吐いた俺を、胡桃はどう思うだろうとか……。


「はぁ……。ダメだ」

頭をブンブンと振って、“やっぱり荷物、預ければよかった”なんて思いながら、ゆっくりと立ち上がった。


――ここは息が詰まる。

そもそも、座った席も悪かったのかも。


真正面に座っていたのは、キャーキャーと楽しそうに旅行の日程を話す大学生の女二人組で、空気の違いというか、何というか。


そんな楽しい気分にもなれそうにない俺は、とにかくそこにいることに息苦しさを感じて、あてもなくフラフラと空港を歩くことにした。


「……」

“展望デッキ”

たまたま、本当に何気なく視線を向けたターミナルマップに、少し立ち止まる。

今まで何度かここに来たことはあったけれど、デッキに出たことはない。


「行ってみるか……」

何となくそれに興味を持った俺は、真っ直ぐに進もうとしていた足の進行方向を90度変え、四階に上がるエレベーターに向かって歩き出した。


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