犬と猫…ときどき、君



駆け付けた空港の展望デッキで春希を見つけ、すごい勢いで言いたいことを一方的に喚き散らした私を、春希は少し困ったような笑顔で見つめて、「帰ろう」と手を引いて歩き出した。


そのまま、まだスンスンと鼻をすする私の頭にポンと手を乗せ、ソファーに座らせると、「待ってて」と告げてチケットのキャンセルをしにカウンターに向かう。


“そんなにあっさりといいの!?”と思った私に、春希は帰りの電車の中で、手を繋いだままポツポツと本当の事を話してくれた。



「ごめん」

そんな言葉で始まった春希の話は、信じられないような話。


「まだ大学選んでなかった」

「は?」

少しだけ疲れたように笑った春希は、いつもみたいに“シワよってる”と、人の眉間を指差して。


「いや、向こうに下田《しもだ》さんいるからさ」

下田さんっていうのは、大学の1期上の先輩で、春希がバイトしていた居酒屋さんで一緒に働いていた人だったと思うんだけど……。


「取り合えず居候させてもらって、聴講しながら合う大学探そうと思ってたから、まだ大学も決めてないし、願書も出してない」

そんなありえないカミングアウトをした。


「はぁ!?」

バカみたいに大声を上げた私に、春希は数ヶ月前と変わらない様子で“くくくっ”と笑う。


「声でけーよ」

その飄々とした様子に呆れてなのか、ひどく安堵したせいなのか、とにかくしばらく言葉も出なかった。

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