犬と猫…ときどき、君
「城戸君っ! ちょっと……ねぇ、待ってよ!!」
ホールを出た私は、少し前を歩く城戸春希に声をかけながら、その背中に駆け寄った。
「ねぇってば!! どうしたの!?」
「べっつにー」
やっと追い付いて袖を掴みながら見上げる私に、一瞬視線を落としたものの、彼の口調は相変わらず素っ気ない。
全然“べっつにー”じゃない――何なら少し睨むような視線に、私はちょっとムッとしてその場で足を止めた。
ワケわかんない。
ここで出来た彼女だったら、彼が不機嫌な理由を話してくれるまで粘るのかもしれないけれど……。
でも残念ながら、私はそんな可愛い女の子じゃないんですよ!!
「もういい。勝手にすれば」
相変わらずスタスタと歩き続ける城戸春希の背中にそう吐き捨てて、私はクルリと踵を返し、来た道を引き返す事にした。
何なの一体!!
私が何したって言うの!?
こういう時、冷静になれないで、相手と一緒にプチンといってしまう自分は子供だと思けれど、それでもやっぱり、ムカつく時はムカつくんだもん。
昨日はあんなに嬉しかったのに……。
下を向いて、頬を膨らませた私だったけれど。
「……何ですか?」
後ろから腕を掴まれて振り返ると、そこにはさっきと変わらず、不機嫌そうな城戸春希が立っていた。
「胡桃」
「なに?」
「……」
私を見下ろすその瞳が、やっぱり綺麗だなぁ……なんて思いながらも、何も言わない彼を仕返しだと言わんばかりにジロリと見上げた。