犬と猫…ときどき、君
それから一週間と一日後。
「それで、城戸にはちゃんと言ったの?」
「え? 何を?」
「“何を”って、やり直そうとか、好きだとかっ!!」
「……言ってないかも」
「はぁ!?」
前と変わらない、ポカポカとした光が差し込む医局で、マコが呆れたように大声を上げる。
「ななななななんで!?」
「何でって、なんとなくそんな雰囲気じゃなかったし」
「今野先生と別れたことは!?」
「それは、なんとなく」
あれから、春希に山前君の話を聞いて、一旦病院に戻る途中、私の携帯が鳴った。
発信者は聡君。
だけど、電車の中だったから出る事ができなくて、駅に着いたら折り返そうと思っていたら、すぐにメールが届いた。
【レントゲンと血検の機械手に入った。明々後日《しあさって》には病院に搬入出来るから、都合いい時間あとで連絡して】
淡々と書かれた、にわかには信じがたい内容のそのメール。
【兄離れなんてまだ早いんだよ。俺の人脈ナメんなよ】
私はそれに固まってしまったのに、その様子を見た春希は携帯を覗き込んで、「あの人らしいな」って、一人で笑っていた。
それから、留学貯金は要らなくなったからと、春希が私に内緒でコマゴマとした物を買い揃えて……。
多少は不足はあるものの、病院を潰さなくてもやっていけるくらいまで機械が集まってしまった。
“しまった”なんて言うと、語弊がある気もするけれど、何だか夢のようで、俄かには信じられないんだもん。
でもそのおかげで、春希が休みの木曜に、マコはこうして医局に入り浸ることが出来ているし、私もその目の前で、呑気にお弁当なんてつつけている。
本当にたくさんの人に助けられて、感謝してもしきれない。
「つーかさぁ、さっさと“好きだー!!”って言って、やり直してよ!!」
「……そんなこと言われても」
「もぉー、まどろっこしいー!!」
目の前で頭を掻きむしる、うるさすぎるマコでさえ愛おしく思える。
「なに笑ってんのよ」
「いや、幸せだなぁと思って」
本当にそう思うのに、マコは私の言葉に、盛大な溜め息をこぼした。