犬と猫…ときどき、君
春希とは、何も変わらない。
恋人同士に戻ったワケでもないし、前よりもメールや電話の回数が増えたワケでもない。
やっぱり“仲のいい同僚”という言葉がしっくりくるこの関係は、ちょっと複雑で……。
「マコが言いたい事はわかるんだけどさ。きっともう一回失敗したら……」
春希も私も、きっと考えてしまう。
「私と春希はもう戻れないと思うから」
お互いを傷付け合わずに済む、一番いい方法を探してしまう。
たくさんの人を巻き込んで、傷付けて、それでも消えなかったこの恋は、すごく強いはずなのに、すごく脆《もろ》い。
だから春希との距離を縮めていくことに、臆病になってしまうんだ。
「自分でも、何とかしないととは思ってるんだけどね」
笑いながらお箸を口に運ぶ私に、マコは困ったように眉を寄せる。
春希は今、どんな気持ちでいるんだろう?
“同僚”としてじゃなく、“恋人”として、私を求めてくれているのかな?
私のことを、昔よりも好きだって、そう思ってくれる日はくるのかな――……。
「何かいいきっかけとか、燃え上がるような事件があるといいんだけどねぇ」
“燃え上がる”ってなによ……。
「え? なに?」
「いや、篠崎君と変な裏工作とかしないでね?」
「はぁ!? そんなことするワケないでしょ!!」
「あははっ! 冗談だってば!」
悩みが尽きる事はないけれど、それでもここはとても平和で、やっぱり幸せな場所。
そんな場所で、“きかっかけ”はまだしも、マコが言う“事件”なんて、そう簡単に起るものではないと思っていた。
だけどそれは、ちょっとずつ、ちょっとずつ、私の知らないところで動き始めていたんだ。